平成24年歳末ごあいさつ
平成二十四年も残りわずかとなりました。
今年は、秋のお彼岸をすぎても残暑が続きました。しかし、十月半ば以降には一転し、全国的に厳しい寒さが訪れました。十二月にはいり、北海道で暴風雪のために送電線が倒壊したというニュースは、いまだ記憶に新しいところです。しかし、我が国を取り巻く厳しい状況は、決して気候の問題だけではありません。東北地方の震災と津波からの復興や、近隣諸国との外交問題、一向に好転する気配の見えない経済状況など、まさに内憂外観のおもむきです。
さらに、原子力発電の存続や、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加、消費増税の実施など、さまざまな問題をめぐる賛否両論が渦巻いています。いずれの問題に対するどのような意見にも、それなりの理由や言い分があるでしょう。また、いかなる主張であろうとも、そこに欠点がまったく存在しないとか、利点がまったく含まれていないということはないでしょう。
物事には、表があれば裏もあります。光がある所には、必ず影があります。耳触りの良い言葉に踊らされたり、一方的な意見にかたよったりすることほど、危険なことはありません。誰もが、少しでも素晴らしい明日をめざし、少しでも明るい未来を願っているはずです。そうだとすれば、様々な意見の中に含まれている良い点と悪い点の双方を、常に冷静に見極め、判断することが大切でしょう。この冷静な心こそ、古来、多くの人々が目標としてきた「不動心」に通じるものではないでしょうか。
しかし、残念ながらそのような冷静さを失った瞬間に、私たちは思いもよらない行動に走ってしまうことがあります。そして、ある一線を越えた時、人は犯罪に手を汚すことになるのでしょう。私事にて恐縮ですが、昭和五十六年より今日まで、静岡刑務所の教誨師として、そのような人々の矯正のお手伝いをさせていただいております。毎月の矯正指導の時間には、この人々が再び罪を犯すことがないように、また、幸せな社会への復帰がかなうことを願いつつ、いろいろなお話をしてきました。そうした中でも、やはり「三つ叱って五つ褒め七つ教えて子は育つ」という言葉のとおり、幼少時における家庭での教育こそが何よりも大切だということを、つくづくと感じてまいりました。
ところで、この教誨師の職務を約三十二年間続けさせていただいたことにより、本年秋の叙勲に際しまして、思いもかけず瑞宝双光章の栄に浴すことになりました。十一月七日に法務省にて勲記勲章の伝達を受け、引き続き皇居に参内して、天皇陛下に拝謁を賜りました。これも、ひとえにお檀家の皆様方の温かいご支援によるものと、心より感謝申し上げる次第です。
また、七月の施食会の際にご連絡いたしましたように、本堂の裏手に位置する開山堂兼位牌堂が、昭和六年の建立以来八十年余の歳月と、その間の戦災被害によるコンクリートの劣化のため、近年とみに老朽化が目立ってまいりました。そのため、現在建て直しの準備を進めております。来年二月頃には現在の建物の解体が始まり、その後、新しい堂宇の建築に取り掛かる予定です。皆様にはご迷惑をおかけいたしますが、なにとぞご理解のほど、よろしくお願い申し上げます。
平成二十四年の歳末にあたり、お檀家様のご健勝を祈念いたしますとともに、よきお年を迎えられますことをお祈り申し上げます。