平成23年歳末ごあいさつ

 
平成二十三年も残りわずかとなりました。

今年もまた、内憂外患と、多事多難な一年でありました。特に我が国においては、三月十一日に東北地方を襲った大地震と大津波のため、多くの方々が犠牲になられました。十二月に入っても、毎日犠牲者のご芳名が新聞紙上に報道されています。何もできず、ただただご冥福をお祈りするばかりです。現地へボランティアやお見舞いに行かれた方々のご報告によれば、一応の片付けは終了しているものの、現実はなお悲惨の一言だということです。

先日、こうした一年間を象徴する「流行語」の一つに、「絆」という言葉が選ばれました。被災された方々が力を合わせて苦難を乗り越えようとされている姿や、世界中の人々が、災害に襲われた我が国を援助するために力を貸して下さった姿が、改めて人と人との結びつきの尊さを私達に思い起こさせた結果なのかもしれません。こうした「絆」を見直し、さらに強めていくことが、大きな災いを乗り越えるためにも、あるいは、昨年話題になった「無縁社会」の問題を解決するためにも、大きな一歩になることは間違いありません。のみならず、人と人とのあたたかい結び付きこそが、お金では買うことのできない幸せを人々にもたらし、十一月に来日されたブータン国王が提唱される「国民総幸福(GNH)」を、我が国でも実現するための足がかりになるのではないでしょうか。

ところで、震災の後しばらくの間、いくつかの被災地ではお寺に人々が集まり、それぞれの地域の「絆」を支える役割を果たしていたという報道を目にしました。考えてみれば、お寺は古くから人々にとっての修行の場、祈りの場であるとともに、学びの場、娯楽の場、そして、集いの場でもありました。いわば、人々の「絆」を育む場所として、人々の生活の中に溶け込んできたお寺の役割が、やはり震災をきっかけとして再び注目されたということなのかもしれません。普段のお寺でも、たまたまお墓参りに来られた方同士の間で、「あら、お宅のお墓もここにあったの」などといって、旧交を温められている姿を見かけることがあります。これもまた、お寺ならではの日常的な「絆」の姿なのかもしれません。

しかし、そうした「絆」を育む場としてのお寺の役割を、さらにいろいろな形で発揮することができないだろうかと考えておりました。そのような矢先、財団法人静岡県舞台芸術センターSPACと、長年にわたって世界の民族音楽の紹介に努めてきた「トラディショナル・サウンド」とのご縁を得て、昨年から顕光院の本堂を舞台に、素晴らしいコンサートを開催できるようになりました。それぞれのコンサートには、老若男女、実に様々な方々が集まって下さいます。おそらく、普通のコンサート会場やライブハウスでは顔を合わせることもないような方々が、「お寺」という会場であるがゆえに、一堂に集まり、新たな出会いを楽しむことができたのかもしれません。そうした出会いの中から、新しい「絆」が生まれるきっかけが生まれたならば、どんなに素晴らしいことでしょうか。また、こうした新しい試みを皆さまに知っていただくため、顕光院のホームページを開設しました(http://www.shizuoka-kenkouin.com)。つたないものですが、ご覧いただければ幸いです。

平成二十三年の歳末にあたり、お檀家様のご健勝を祈念いたしますとともに、よきお年を迎えられますことをお祈り申し上げます。